溢れる時計愛が男を
ストラップ職人の道へ走らせた

2017年7月、松下庵のFacebookにスイスからダイレクトメッセージが入った。トゥールビヨン、ミニッツリピータ等超複雑時計を製作する事で有名な独立系時計技師アントワーヌ・プレジウソ氏からだ。

 

「あなたの作品に感動した。9月に訪日した時に工房に伺いたい。」

との事だ。その後、アントワーヌ・プレジウソ氏の手掛ける時計の日本代理店の手配で9月に面会が実現した。松下のストラップに魅せられ松下と意気投合したアントワーヌ氏は松下に限定トゥールビヨン専用のストラップをオーダーしスイスへと戻った。

その後、そのストラップの完成度に満足したアントワーヌ氏から驚くべき連絡が入った。 「2018年のバーゼルに出品する新作トゥールビヨンのストラップを一任したい。アーティスト松下の感性で和のテイストを入れてデザインし製作して欲しい。」 「ストラップの裏面にはアントワーヌ・プレジウソ氏の刻印と松下庵の刻印の両方をいれて欲しい。」との依頼だ。松下は着物生地を配したレザーストラップを2本製作しスイスに送った。2018年3月 松下のストラップはアントワーヌ氏の新作トゥールビヨンと共に現地で多くの称賛を受けた。松下のストラップが大舞台で認められた第一歩だった。

 

アントワーヌ・プレジウソ

日本オフィシャルホームページ

松下は1966年に北海道札幌で生まれた。幼少期から機械モノいわゆるメカが好きで時計好きの叔父が所有する腕時計に憧れていた。少年は腕につけるメカが欲しかった。 小学生の頃、家に来たお客さんが付けていた黒いクロノグラフを見た時に衝撃を受けた。おそらくオメガのスピードマスターであったと松下は記憶している。その時から「カッコいい時計が買える大人になる!」が夢になり目標になった。

メカ好きであり野球少年でもあった松下は革製のグローブやスパイクを大切にし、いつも入念に手入れをしていた。そんな事もあって松下は時計も金属製ブレスよりも革製のストラップの付いたものに憧れていた。好奇心旺盛なこの少年はその後ギターに没頭し地元では技巧派ギター少年としても知られるようになった。
1985年に松下はミュージシャンになる事を目指しフェンダーテレキャスター1本を持ち上京した。もちろん時計への興味も憧れも捨ててはいない。


上京して1年、アルバイトをしながらの音楽活動を続けていたがとある音楽プロデューサーの言葉であえなくミュージシャンになる夢を断念した。

ミュージシャン以外の仕事についた松下だが、時計に対する情熱は冷めずに仕事の合間や休日に時計店や質屋を巡って時計を見るのが習慣になっていた。時計のコレクションもセイコーやロレックス、オメガ、オールドインター等徐々に増えていった。 一時期は時計技師を目指し時計学校にも通ったが視力の問題でこれも断念する事となった。 そしていよいよ時計への情熱と憧れは増すばかりの松下は2009年に松下庵(松下商事株式会社)を創業した。

目利きした時計を集め販売する事とカッコいいストラップを輸入販売する事を目的としての創業だった。

しかしながら、納得のゆく既成のストラップをなかなか見つける事が出来ずに、松下がデザインスケッチを作成し、素材を指定して、技と腕のある革職人に依頼して作製していた。 それでも個々の時計への想い入れがある松下は出来上がってきたストラップのディテールが納得できなかった。

松下は自ら技術を習得しストラップを製作する事を決意し、腕のあるストラップ職人の元に通い革を扱う技術の習得に努めるとともに独学でストラップの研究を進めた。2012年からである。

暫くして、そこそこ自分で納得のゆくストラップが作れるようになったと思っていた松下だが、2015年にそれまでのデザイン重視のストラップでは満足できなくなり壁にぶつかった。

それから一日22時間工房に籠りストラップを作り続け、材料費が無くなるとアルバイトにでるという生活をしばらく続けた 装着感、剣先の入り、遊革・定革の仕上がり、耐久性、エイジングを考慮した仕上げ等、本物のストラップを追求し、試行錯誤を繰り返し多くのストラップを廃棄した。

そんな時期でも松下のストラップを支持するコアな時計愛好家や時計店からのストラップ製作依頼は絶えなかったが、3本作り2本捨て納得のゆく1本を商品にするといった状況を続けた故経済的に厳しくアルバイトに出ざるを得なかったのである。 そしてようやくそんな生活習慣から抜け出した頃のアントワーヌ・プレジウソ氏からの連絡であった。

その後も松下は理想のストラップ作りを追い求め多くの時計愛好家や著名人、日本の誇る独立時計メーカー キクチナカガワらの依頼を受けたり真面目にストラップを作り続けているが積極的に表舞台には出ていない。 しかしながら、松下は2021年の春に工房を一新し仲間を得、インターネット、SNSを駆使し、世界中のより多くの時計愛好家に松下の作るストラップを提供しようと決意を新たにしたのである。

KIKUCHI NAKAGAWA オフィシャルホームページ